では、もう一つ、よりよい親子関係をつくっていくためのアドラー子育ての大事な考え方を紹介します。
で紹介した親子を引き続きみていきましょう。
課題の分離とは?
アドラー心理学には、「課題をわける」(課題わけ、課題の分離)という考え方があります。
一言で言うなら、自分の事情と、他人の事情をわけて考える、ということ。
わかりやすく伝えるために、親が「体調悪いの?」と聞いたことに対して、お子さんが「別に」とそっけなく返したことだけを例にとって解説します。(ご飯を残すことの是非や、子どもの言葉遣いや態度については、今は考えません)
まず、そこに事実としてあるのは、「子どもがご飯を少ししか食べなかった」ということ。
「体調が悪いのでは?」と感じたのは、親の主観であるということです。
お子さんにはお子さんの事情があるので、ご飯を少ししか食べなかったのは、お子さんの課題です。
相手の行動や相手がどう感じるは、親がコントロールできるものではなく、自分がコントロールできないものは、相手の課題である、と考えます。
もしかしたら、お子さんは、お友だちとケンカした、テストの点数が悪かった、考え事があってそのことで頭がいっぱいだった、親に内緒で何かを食べてお腹がそれほど空いてなかった、などいろいろ理由が考えられますが、その真意は親にはわかりません。
体調が悪そうに見えたけど、そうではないのなら、それは単にこちらの予想が外れただけ。
「体調が悪いわけでなくて、よかった、安心した」と伝えるだけでいいのです。
お子さんには、キゲンが悪い(ように見える)状態でいる権利もあるのです。子どものキゲンは親だからと言ってコントロールできるものではありません。
つまり、お子さんのキゲンが悪かったとしても、それを親は気にする必要はありません。
親子関係をはじめ、人間関係のトラブルは、相手の課題に踏み込んだり、自分の課題に踏み込ませてしまうことで起きることがほとんど。
逆に親がイライラしているなら、それは親の課題ですので、お子さんは全く関係ありません。自分のイライラは自分で引き受けなければならないということになります。
こう考えてみてください。
もし、相手が自分の子どもではなく、あなたの大事な親友であれば、あなたはイライラを親友にぶつけるでしょうか。おそらくしないでしょう。
対等であるということは、親友に接するように、自分の子どもにも、同じようにするということ。
境界を引いた上で、対等でいることを親子関係のベースにすることが、あなたにとっても、お子さんにとっても、居心地の良い感覚をつくっていきます。
小さなお子さんのケースと親側に求められること
お子さんの年齢が低くても、親としての基本的な関わり方に変わりはありません。
子どもが小さいうちは、子どもができることの範囲が小さいものですが、それでも課題はきっぱりと分離し、子どもにできることは、子どもにやってもらい、その責任を子どもにもってもらうこと。(もちろんその責任の大きさは、年齢によって変えていくように親が工夫しなければなりません)
そのためには、子どもを信じて、子どもにやらせてみる、子どもに任せる、子どもに解決させることを親が「見守るチカラ」が必要になります。
課題の分離がよい効果を発揮するには、親が子どもを信じるという土壌がなければなりません。
さらに、このとき最も大切なポイントは、「何か困ったことがあったら、いつでも私は協力したいと思っているから、そのときは声をかけてね」という態度を言葉とともにいつも伝え続けること。
お子さんにとっては、突然「それはあなたの課題だ」とすべてを押しつけられたら、見放されたように感じ、悲しくなったり、困惑したりしてしまいますよね。
何かしてほしいこと困ったことがあったときには、子が親に相談できる、と思えるような協力的な関係づくりができていることを日頃から目指していくことです。
2014年にベストセラーになった『嫌われる勇気』でアドラー心理学が有名になり、「課題の分離」と言う言葉が広く認知され始めていますが、課題をわけただけでは、放任主義と何一つ変わりません。
親であるあなたは、課題の分離の根底にある考え方を理解し、根気強く、長い目で子どもに関わっていく覚悟が大事です。
子どもには「伝わっているだろう」ではなく、言葉と態度で「必要があればいつでも相談にのれること」を対等な目線から伝え続けること。
例に挙げたお子さんに、そのような親の態度や伝わっているならば、ピンチのときや、相談に乗ってほしいときには、お子さんの方から話をしてくれるはずです。
では、その肝心の「必要なとき」には、どんな関わり方をしたらよいでしょうか。
お互いの合意の元に、「共同の課題」を設けることができるのです。